【こんな症例も治りますシリーズ 556】 犬の『 甲状腺機能低下症 』も 適切な診断と治療で治します・珍しい『 粘液水腫 』も紹介します

↑ 上の写真は、犬の甲状腺機能低下症で良く見られる症状です。

■ 右の顔貌は、活気が見られない状況です。

■ 左の皮膚は、左右対称に脱毛や黒色色素沈着している状況です。

 

 

参照サイト:

https://bit.ly/3HMuL80

 

犬 11歳齢 オス(去勢手術済)

 

 

【 先週まで調子よかったのに今週覇気がない 】とのことで来院されたワンちゃんです。

 

 

 

◆◆ 来院時は、元気がなく、ボーっとした様子でした。

 

 

■ このワンちゃんは元々アトピー性皮膚炎で通院していて、痒みはお薬でコントロールされていました。

 

 

また少し前に健康診断をして、血液検査には全く異常ありませんでした。

 

 

 

■ そこで、追加の血液検査をさせていただき、すぐに甲状腺ホルモンが低下している事がわかり、『 甲状腺機能低下症 』が疑われました。

 

 

 

◆◆ ワンちゃんには甲状腺、上皮小体、副腎、膵臓などの多様の内分泌腺があり、分泌されるホルモンは生命維持に欠くことができないものです。

 

 

 

■ 内分泌疾患はこれらの臓器から産生・分泌されるホルモンの異常で起こり、発育、代謝、生殖、皮膚などに様々な症状を発現します。

 

 

 

◆◆ 甲状腺機能低下症は、甲状腺で産生・分泌されるホルモンの欠乏によりおこります。

 

 

 

■ 原因として、ワンちゃんでは特発性甲状腺委縮と、リンパ球性甲状腺炎(自己免疫反応により甲状腺が破壊される)によるものが殆んどとされています。

 

 

 

★ 症状は、『 無気力、倦怠、元気消失、運動不耐性、体重増加、不整脈、心拍の低下、皮膚炎など 』が観察されます。

 

 

★ 血液検査では、総コレステロールや中性脂肪の値が高値を示すことがあります。

 

 

 

### ここで、あまり有名でない症例ですが、実はとても重要な『 この病気の事 』をお伝えしたいです。

それは、『 甲状腺機能低下症でも、重篤な昏睡状態になる 』事実です。

 

 

 

もっと分かり易く言いますと、『 甲状腺機能低下症が重症になると死亡する 』事がある、と言うことです。

◆ 今は、甲状腺ホルモンが手軽に計測できるようになりましたが、昔は重篤な昏睡状態になった症例を検査してみたら『 甲状腺ホルモン低値による“ 粘液水腫性昏睡 ” 』という診断が出た、という症例報告を散見しました。

 

 

 

◆ この『 粘液水腫性昏睡 』という病気は、『 重度のムクミ(皮下組織の浮腫・水腫) 』が起こりますので、全身の皮膚を触ると浮腫んでいます。

 

 

◆ この原因は、病期によってムコ多糖類という物質が皮下組織に多くなり、この物質が水を多く含む性質(保水力)が高いために皮下水腫が起こるのです。

 

 

 

★ この病気のコワイ点は、『 中枢神経症状に加え、低体温、循環不全、呼吸不全など、多臓器障害が起こる 』という、一般の方々の常識では考えにくい病状へと進行する事です。

 

 

◆◆ さて、このワンちゃんは、無気力の他に、痒みはお薬で治まっていたにもかかわらず、脇腹や後ろ足のつけ根に対称的に脱毛が見られました。

 

 

 

■ 甲状腺機能低下症の治療は、体内で生産出来なくなった分の甲状腺ホルモンを内服薬で補って、血中濃度を調整していきます。

 

 

■ 今回のワンちゃんも、甲状腺ホルモン内服薬を処方し、翌日から元気が徐々に回復し、2週間後には発毛も見られ、いまはすっかり元気にしています。

 

 

■ ワンちゃんが急に元気食欲がなくなったり、皮膚に異常が見られたりしたら、当院までご相談ください。

 

 

 

獣医師 天野雄策

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