【こんな症例も治りますシリーズ 651】 『 セカンドオピニオン診療 : 前肢に大きな軟部組織肉腫が出来たワンちゃん 』も 適切な診断と治療で治します

↑ 上の写真は、右前肢の腫瘍部CT画像です。

■ 左が手術前の手首周辺のCT立体画像です。

■ 右は、腫瘍部分の断面CT画像です。

 

犬 ポメラニアン 7歳 メス(避妊手術済み)

 

 

【 前足のシコリに気が付いて、かかりつけの動物病院で細胞診検査をしてもらったところ、軟部組織肉腫の疑い 】ということで、手術を含めたセカンドオピニオン診療で来院されました。

 

 

 

◆◆ 軟部組織肉腫という名前は、初めて聞く方も多い病気だと思います。

 

■ 軟部組織肉腫とは軟部組織に発生する非上皮系(間葉系)由来の腫瘍の総称です。

 

 

■ 体のどんな部位にも発生しますが、皮膚や皮下組織で多く発生し、犬の皮膚及び皮下腫瘍の

8-15%を占めると報告されています。

 

■ 中年齢から高齢での発生が多く、中型から大型の犬に多いと言われます。

 

 

 

★★★ 軟部組織肉腫というグルーブには、由来する細胞によって『 悪性末梢神経鞘腫、血管周皮腫、繊維肉腫、脂肪肉腫 』などさらに細かな分類があります。

 

 

 

◆◆ さて、このワンちゃんですが、手術前に腫瘍の広がりや転移の有無を確認するためにCT検査を行ったところ、右前肢の外側に出来ていたしこりは、筋肉と骨の間に潜り込んで内側まで広がる大きな腫瘍になっていました。

 

 

 

■ 軟部組織肉腫は肉眼的な見た目以上に腫瘍の「根」が周囲に広がっていて、保存的な切除では再発することが多いとされています。 一方で他の臓器への遠隔転移は少ない腫瘍です。

 

 

 

■ 今回のように組織の間に腫瘍が入り込んでいる場合、部分的な切除では腫瘍の「根」が周囲に残ってしまう可能性が高くなります。

 

 

 

 

■ そのためこのような状況では、腫瘍を完全に取り除くためには患肢の断脚が必要とされています。

 

 

 

■ 断脚する場合としない場合、それぞれにデメリットはありますが、今回は飼い主様と相談の結果、軟部組織肉腫は比較的遠隔転移を起こしにくい腫瘍であるため、局所での再発のリスクがあるとしても肢を温存して摘出することとしました。

 

 

 

 

↑ グロテスクな写真でスミマセン。

■ 腫瘍摘出手術の前後の写真です。

 

 

■ 前肢の筋群の中に潜り込んでいたため、周囲の筋肉や腱、神経、血管を損傷しないように慎重に腫瘍を周囲から剥離し、腫瘍全体をひと塊のまま摘出できました。

 

 

■■ 腫瘍の摘出に伴って皮膚を一部摘出しましたが、足先で皮膚が伸びる余裕がなく、そのままでは傷口を閉じることができませんでした。

 

 

■ このような場合、減張縫合や皮膚移植など様々な方法で傷口を閉じますが、今回は皮膚移植の難しい部位だったことから、皮膚のメッシュ状切開による減張法を用いて傷口を閉じました。

 

 

■ 手術直後には皮膚に小さな穴が多数できるため、大変痛々しい見た目にはなりますが、比較的傷口は小さく済み、術後の回復も早い方法です。

 

 

 

■ 手術後、心配された患肢の機能異常はなく、皮膚も問題なく回復して元気に過ごしてくれています。

 

 

 

 

◆◆ 病理組織検査の結果は『 軟部組織肉腫 』の診断で、手術前から予想していた通り残念ながら完全な切除にはなりませんでしたが、足の機能に問題を出すことなく大きな腫瘍を取り出すことができました。

 

 

■ また、同時に付属リンパ節の切除を行いましたが、こちらの病理検査では現時点での転移は確認されませんでした。

 

 

■ 転移することは少ない腫瘍ですが、同じ場所での再発が心配されますので慎重に経過を見ていきたいと思います。

 

 

■ 少しでも長く、自分の足で歩けるように願っています。

 

 

 

獣医師 別府雅彦

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