【こんな症例も治りますシリーズ 474】 門脈体循環のシャント(短絡)血管 も適切な診断と治療で治します

★ 上のイラストは、左の赤が心臓、中央の茶色が肝臓、右の薄茶色が小腸で、青色の横棒が門脈と静脈です。
★ 青色横線の一番下が、肝臓を介している『正常血管』です。 この状態だと、肝臓内で解毒・代謝されるので、健康体になります。
★ 中央の青色横線は、肝臓内を通過はしているが、解毒されずに心臓に達する『肝内シャント』。
★ 一番上の青色横線は、肝臓の外を通過している『肝外シャント』。 詳しくは、本文で。

 

 

参照サイト:

https://bit.ly/3Hl3arq

 

トイプードル 1歳 オス(去勢手術済み)

 

 

【 頻尿が治らない 】ということで来院されました。

 

 

◆◆  レントゲンを撮影してみると、膀胱結石がありました。

頻尿は、結石による膀胱炎かと思われました。

 

 

■ しかし、それだけでは終わりません。

 

■ レントゲン検査で、肝臓が小さく映っています。 『 小肝症 』です。

 

■ 血液検査では、肝臓酵素値が高いです・・・

 

■ 追加検査で、総胆汁酸測定を、食前と食後で測定することにしました。

 

 

※ 胆汁とは、脂質の消化を助ける働きを持つ成分です。 総胆汁酸(TBA)は、肝臓と腸の間で循環する性質(腸肝循環)を持つので、通常は血液中にほとんど存在しません。 つまり、血液中に高い濃度のTBAが認められれば、腸肝循環の障害や肝臓の機能異常の可能性が考えられます。

 

 

■ 結果は、食後TBAが高値になりました。

 

 

■ この年齢で肝機能異常といえば、まずは【 門脈体循環のシャント血管 】を疑います。

 

 

■ 門脈体循環シャントとは、本来肝臓に入るべき小腸からの血液が、「シャント(短絡血管)」と呼ばれる異常なバイパス血管を経由して、解毒を受けないまま太い血管に乗って全身を巡ってしまうことです。

 

 

※ 門脈は、小腸の回腸部から食物の栄養分や毒物を肝臓まで運ぶ特別な血管です。

 

 

 

■ 本来は肝臓において解毒と代謝を行い、全身に運ぶ体循環血管に合流するのですが、解毒をうけないまま体循環の血流が乗ることになり、『 毒物が様々な弊害 』を産み出します。

 

 

 

■ その一つが『 アンモニアの代謝異常による膀胱結石 』です。

 

 

 

■ シャント血管を見つけ出し、手術による結紮か血管狭窄術を行わないと、繰り返し膀胱結石が出来ることになります。

 

 

 

■ このシャント血管を見つけ出すのに有用なのが『 CT検査 』です。

 

 

 

■ 造影剤投与によるCT撮影で、シャント血管を探します。

 

 

■ 治療のプランとしては、全身麻酔下でCT撮影を行い、同時に膀胱結石の除去手術を行い、後日シャント血管手術を行う事としました。 一度に全て行うには、時間がかかり、ワンちゃんの体力が持たないと判断したためです。

 

 

 

※ シャント血管は、先天性の場合1本が多いですが、後天性の場合、複数存在することがあり、見逃しを防ぐために複数の獣医師でCT画像を精査して、そこに時間をかけて確認することが重要です。

■ CT撮影を行うと、後大静脈と門脈を繋ぐシャント血管が見つかりました。 門脈と肝臓後部の大静脈を繋いでいます。 シャント血管は細く、蛇行しています。 シャント率は低そうです。

 

 

■ このシャント血管が太かったり、短かったりすると、シャント血管の血流(シャント率)が多いことが示唆され、術後の合併症が起こる可能性が高いです。

 

 

 

 

■ 膀胱結石除去の手術も無事に終わりました。

 

※ 結石を分析検査にだしてみると…尿酸アンモニウム結石、比率は100%でした。

やはり膀胱結石は門脈シャントのせいで出来たもののようです。

 

 

 

■ 術後の回復を待ち、今度は門脈シャント血管の結紮を行いました。

 

※ この際、手術中の麻酔術・短絡血管を仮に結紮した際の造影検査や、手術後の発作には十分注意しないといけません。

 

 

■ この子は、術後、食事も食べ出し、回復は順調なようです。

 

 

■ 引き続き、しっかり経過観察を行っていきたいです。

 

 

 

獣医師 増田正樹

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