【こんな症例も治りますシリーズ 738】 『 診断が難しい犬の特発性前庭疾患 』も適切な診断と治療で治します

↑ 上のイラストは、犬の耳の内耳と中耳です。

■ 犬の平衡感覚は、上のイラストの「カタツムリ」の様な骨の部分が重要です。

■ この部分や、その周辺が傷んでしまうと、『前庭疾患』という症状が出ます。

 

 

参照サイト:

https://00m.in/GCQcX

 

 

犬 ミックス犬 10歳 オス(去勢手術済み)

 

 

【 歩くと斜めに傾き、真っすぐ歩けない 】とのことで来院されました。

 

 

 

 

◆◆ 飼主様からお話を伺ってみると、『 昨日の夜から食欲・元気がなく、今朝は歩くと左側に傾き、真っすぐ歩けなくなっていました。 また、朝一回、吐きました 』とのことから当院に来院されました。

 

 

 

■ 前庭とは、平衡感覚をつかさどる脳の器官の総称で、大きく分けて『末梢』と『中枢』の2つに分けることができます。

 

 

 

① 末梢前庭とは、鼓膜の内側に存在している内耳とそれにつながる内耳神経を指します。

 

また、内耳には、平衡度を感じ取る「三半規管」があり、その情報は脳に伝えられます。

 

 

 

② 中枢前庭とは、延髄や小脳の一部において平衡感覚に携わっている領域のことを言います。

 

 

 

■■ 前庭疾患は、これら前庭系のどこかに異常が現れて、平衡感覚を失ってしまう病気です。

 

 

■ 症状は、頭の傾き(斜頸)、眼振、歩行異常(旋回運動や起立不能)、嘔吐、流涎などが認められます。

 

 

■ 原因としては

 

① 末梢性前庭疾患は、外耳炎/中耳炎/内耳炎、内耳腫瘍、内耳神経の異常など

 

 

 

② 中枢性前庭疾患は、脳腫瘍、脳出血、脳炎、脳梗塞などが考えられます。

 

 

 

また、これら以外で、どこに異常があるか診断がつかない状態を③特発性前庭疾患と言い、高齢の犬に比較的多く見られます。

 

 

 

■ 検査方法は、耳鏡検査、神経学的検査、血液検査、CT検査、MRI検査等があります。

 

 

 

■ 治療は、それぞれの原因に基づいて行われます。

 

 

 

 

◆◆ さて、このワンちゃんの場合、神経学的検査では、左側を下にした捻転斜頸、右側に急速に動く水平眼振及び左側への旋回歩行が見られました。

 

 

■ 一方、耳鏡検査、血液検査では、特に異常は見られず、また甲状腺ホルモン濃度(T4)も正常値の範囲内でした。

 

 

■ 以上のことから、このワンちゃんの場合、CT検査、MRI検査は未実施のため、中枢性前庭疾患の疑いを完全に除外することはできませんが、年齢等も鑑み、総合的に判断して、『特発性前庭疾患』と診断しました。

 

 

 

■ 特発性前庭疾患は、自然に治癒することから、神経症状に対する治療は特に必要ありませんが、食欲不振や嘔吐がある場合は点滴や吐き気止めなどの対症療法を行います。

 

 

 

■■ さて、通院3日目には、眼振はなくなり、頭の傾きもとに戻って、真っ直ぐに歩けるようになりました。 また、食欲もほぼ戻り飼い主様も『元気になった』と喜んでおられました。

 

 

 

 

■気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

獣医師 泉 政明

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