【こんな症例も治りますシリーズ 873】『 ワンちゃんの口の中の黒いできもの(口腔内メラノーマ) 』も適切な診断と治療でコントロールします

↑ 上の写真は、今回のワンちゃんの口の中(右の頬の内側)にできた黒い腫瘤(しこり)です。
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◆ 黒い色の腫瘤では、悪性メラノーマの可能性を考える必要があります。(黄色矢印先端)
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◆ 見た目だけでは腫瘍の種類は分からないため、CT検査と病理組織検査(生検)で確定診断をしました。

 

 

犬 トイ・プードル 10歳 オス(去勢手術済み)

 

 

【 口の中にデキモノができた 】とのことで来院されたワンちゃんです。

 

 

 

■ 口の中を確認したところ、右の頬の内側の粘膜(右頬粘膜)に、黒い色の腫瘤(しこり)が見つかりました。

 

 

 

◆◆ 口の中にできる腫瘤(しこり)について

 

■ ワンちゃんの口の中には、さまざまな腫瘤ができます。

 

■ 良性の腫瘍だけでなく悪性の腫瘍(がん)も多く、次のようなものを見分ける必要があります。

・ 悪性メラノーマ(黒色腫:色素をつくる細胞のがん)

・ 扁平上皮癌(口の粘膜の表面の細胞のがん)

・ 線維肉腫(歯ぐきなどの結合組織のがん)

・ その他の間葉系腫瘍(筋肉や血管など、体を支える組織からできる腫瘍)

・ 良性の歯原性腫瘍(歯をつくる組織からできる良性の腫瘍)や線維性腫瘤

 

 

■■ 見た目だけで腫瘍の種類を判断することは難しいため、口の中に腫瘤が見つかった場合には、組織検査(腫瘤の一部を取って顕微鏡で調べる検査)による診断が重要になります。

 

 

■ 特に黒い腫瘤では、悪性メラノーマの可能性を考える必要があります。

 

 

 

 

◆◆ まずはCT検査と生検

 

 

■ 今回の症例では、次のことを確認するためにCT検査を行いました。

 

 

・ 腫瘤がどのようなものか(腫瘤の性状)

・ まわりの組織にどこまで入り込んでいるか(浸潤)

・ リンパ節や肺などへの転移があるかどうか

 

 

■ 画像検査では、離れた場所への転移(遠隔転移)を疑う所見はありませんでした。

 

■ 同時に、腫瘤の一部をくさび形に切り取って調べる切除生検(楔状生検)を行いました。

 

 

■■ 病理組織検査の結果、診断は『悪性メラノーマ』でした。

 

 

 

 

◆◆ 犬の口の中のメラノーマの予後(今後の見通し)

 

 

■ 犬の口の中にできる悪性メラノーマは、まわりの組織に入り込みやすく(局所浸潤性が高く)、リンパ節や肺などへも転移しやすい腫瘍として知られています。

 

 

■ 過去の報告では、手術を受けたワンちゃんの生存期間中央値(半数のワンちゃんが生存している期間)は、WHOステージ(腫瘍の進行度の分類)によって、おおよそ次のように報告されています。

 

・ ステージⅠ(早い段階) : 17~18か月

・ ステージⅡ : 5~6か月

・ ステージⅢ(進んだ段階) : 約3か月

 

 

■ また近年の報告でも、口の中のメラノーマは、ほかの部位のメラノーマと比べて予後が悪い傾向が示されています。

 

 

■ 日本の動物病院で行われた123頭の研究では、口の中のメラノーマの生存期間中央値は191日(約6か月)でした。

 

 

■■ ただし、これらはあくまで集団としてのデータです。

 

■ 次のようなことによって、予後は大きく異なります。

 

・ 腫瘍の大きさ

・ 腫瘍ができた場所

・ ステージ(進行度)

・ リンパ節への転移があるかどうか

・ 手術で腫瘍を完全に取り切れたかどうか

 

 

■ また、口の粘膜にできるメラノサイト系腫瘍(色素をつくる細胞の腫瘍)の中には、比較的おとなしい性質のものも報告されています。

 

■ そのため今回の症例も、一般的な統計だけで予後を判断するのではなく、実際の腫瘍の性質や進行の程度をふまえて経過をみていく必要があります。

 

 

 

 

 

◆◆ 手術について

 

 

■ 今回の腫瘤は、右の頬の内側の粘膜に出来ていました。

 

■ 悪性メラノーマでは、可能であれば十分なマージン(腫瘍のまわりにつける正常な組織の余白)をとって切除することが望ましいとされています。

 

■ しかし、口の中は大切な組織が密集しているため、場所によっては十分なマージンをとることが難しい場合があります。

 

■ 今回も、腫瘤のできた場所から、十分なマージンをとった大きな切除は難しいと判断しました。

 

 

■■ 飼い主様と相談したうえで、今回は辺縁切除(腫瘍のきわで切り取る方法)を行うことにしました。

 

 

 

 

◆◆ 追加の治療について

 

■ 口の中のメラノーマでは、腫瘍を切除するだけでなく、再発や転移のことも考えて治療を行う必要があります。

 

 

■■ 今回は手術に加えて、分子標的薬(がん細胞の特定の仕組みをねらって働く薬)による治療も組み合わせることにしました。

 

■ また、腫瘍ができた場所での再発を抑えるためには、放射線療法を組み合わせることも治療の選択肢の一つになります。

 

 

■ 特に十分なマージンがとれない場合には、放射線療法を含めた集学的治療(いくつかの治療を組み合わせる方法)を検討する価値があります。

 

 

■ 実際に、犬の口の中の悪性メラノーマでは、放射線療法による局所制御(その場所の腫瘍を抑えること)が検討されており、治療法によって生存期間にも差がみられることが報告されています。

 

 

■ 今回も放射線療法についてご説明しましたが、飼い主様と相談した結果、今回は行わない方針となりました。

 

 

 

 

 

 

◆◆ 手術後の経過

 

■■ 手術から約2か月が経過しています。

 

 

・ 現在のところ、手術した場所での明らかな再発は認められていません。

・ 画像検査でも、転移を疑う所見は認められていません。

・ 食欲や元気も保てています。

 

 

■ 口の中のメラノーマは、転移や再発に注意が必要な腫瘍です。

 

■ 今後も定期的に口の中の状態を確認するとともに、リンパ節や胸部なども注意深く経過をみていく必要があります。

 

 

 

 

■■ 今回の症例では、口の中にできた黒い腫瘤をきっかけにCT検査と生検を行うことで、腫瘍の種類だけでなく、現時点での進行状況も確認することができました。

 

■ 今後も再発や転移がないか慎重に確認しながら、少しでも良い状態を長く保てるよう、しっかりと経過をみていきたいと思います。

 

 

 

 

 

獣医師 増田正樹

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