当院における猫の伝染性腹膜炎(FIP)への対応

当院はFIP治療が日本国内で可能となった初期から多数の治療を行ってきました。
2022年には国際的な猫医学会であるISFMでもFIP治療に関するガイドラインが発表されました。ISFMの定める最高位認定であるGold認定を取得している当院では、ISFMの定める国際的なガイドラインに沿いつつ、当院での診療実績に基づく知見を交えて猫の伝染性腹膜炎(FIP)に対する治療を行っております。

【猫に優しい病院としてGOLD認定を受けております】
https://fah-takahashi.com/consultation/cat-medical/

猫の伝染性腹膜炎(FIP)の治療はどこで受けても同じ?

最近では保険適応となる治療薬を国内で入手することもできるようになり、多くの動物病院で猫の伝染性腹膜炎(FIP)ができるようになったことは喜ばしいことと言えるでしょう。

しかし一方で、治療実績がまた乏しかったり、治療費用は安価ではあるが・・・などの場合も多く、当院に猫の伝染性腹膜炎(FIP)のセカンドオピニオンでお越しになる飼い主様の多くが、「こちらの病院に最初から来ていれば・・・」とお話いただくことが多いのが実情です。

決して他院様を否定してるわけではありません。猫の伝染性腹膜炎(FIP)でお悩みの飼い主様が納得して治療を受けていただくための情報の一助としてご覧いただければと考えております。

当院へ転院された猫の伝染性腹膜炎(FIP)の一例

Case1 3歳半のオスのネコちゃん

他院でFIPの治療をされてきたが、猫エイズのキャリアで中々検査値が良くならず、その際の『他院の担当医の⾔い⽅に恐怖感を覚えた』とのことでセカンドオピニオンを求めて、当院へ来院されました。
その後、当院で加療を⾏ったところ、全ての検査値が良くなりました。飼主様が、⼤変に喜んでいただいております。


Case2 5歳のメスのネコちゃん

他院で『FIPの診断を受けたが、その病院では昔の方法しかFIP治療が出来ない』と言われ、当院を紹介いただきました。飼主様は、FIPの専門医療を受けたいと希望して来院されたが、この猫ちゃんが元々猫エイズのキャリアである事は飼主様が分かっておられ、根気強く飼主様とネコちゃんが頑張ってくださり、完治しました。


Case3 5カ月齢のオスのネコちゃん

他院で『FIPの診断を受けたが、私の病院では、まだ特効薬治療途中のFIP猫が2頭しかいない、と自信無げに言われ、そちらの病院では不安だったので、インターネットで探した』とのことでご来院いただきました。実際にかなり状態が悪かったですが、注射薬治療を行ない始めたら、すぐに良くなり、強力な治療を追加で実施することで完治を確認する事ができました。遠方の方ですが、同居のネコちゃんの診察にも来られるようになりました。


Case4 2歳半のオスのネコちゃん

隣県から片道3時間かけて通院いただきました。その県では、FIP特効薬を使った治療をしている動物病院が無く、近医で『FIPと診断できるが、特効薬の治療は出来ない』と言われたので、インターネットで探して当院までご来院いただきました。
中等症のFIPであったが、丁寧に診療を進めていき、完治を確認できました。


Case5 14歳のオスのネコちゃん

他院で、『FIPの可能性があるが、確定出来ない』と言われ、お困りのところ、インターネットで当院を見つけられ、2県隣の県からご来院いただきました。診断検査を丁寧に行ったところ、『腹水は、猫の心臓病からのモノ』と判定され、心臓病治療を行なったら良くなってきております。


Case6 2歳のオスのネコちゃん

他院で『FIPの可能性がある』、というだけでモルヌピラビルでの治療を開始されたが、なかなか治ってこないので、その病院に不信感がある、という事で、当院に転院されてきました。
当院で丁寧に検査したところ、『FIP中等症ドライタイプ』という治りにくいケースであったため、薬の調整を行って治療と経過モニター検査を継続してまいりました。完治確認には、当院は時間をかけておりますが、この猫ちゃんは完治を確認致しました。

猫の伝染性腹膜炎(FIP)とは?

猫の伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス(FCoV)感染によって引き起こされる免疫介在性疾患です。FCoVは以下の2つのタイプに分けられます。

Feline enteric coronavirus(FECV)

弱毒の病原性腸コロナウイルス

Feline infectious peritonitis virus(FIPV)

猫伝染性腹膜炎ウイルスです。
猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)はFECVが体内で突然変異をおこし、強毒性のウイルスになると言われております。発症した猫のほとんどが死亡する、【致死性の高い病気】です。

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猫の伝染性腹膜炎(FIP)の症状

お腹や胸に水が貯まる〝ウェットタイプ〟と、内臓に肉芽腫を作る〝ドライタイプ〟、その混合タイプの3つに分けられます。

1歳未満の比較的若い猫や、8歳からのシニア猫が発症することが多く、ドライタイプに比べウェットタイプは非常に進行が早いため、発見から10日ほどで急死してしまうケースもみられます。

ウエットタイプ
のFIP猫
ドライタイプ
のFIP猫
ウェットタイプ ドライタイプ 混合タイプ
腹水・胸水の貯留、黄疸、発熱、食欲低下、貧血、嘔吐、下痢、腹水では腹囲膨満、胸水では呼吸異常が見られることが多いです。 発熱、貧血、内臓の肉芽腫性炎による症状(てんかん発作、腎不全、肝不全、消化器症状、ブドウ膜炎) 腹水・胸水、腹部臓器に肉芽腫のどちらの特徴もある症状。
ウェットタイプ
腹水・胸水の貯留、黄疸、発熱、食欲低下、貧血、嘔吐、下痢、腹水では腹囲膨満、胸水では呼吸異常が見られることが多いです。
ドライタイプ
発熱、貧血、内臓の肉芽腫性炎による症状(てんかん発作、腎不全、肝不全、消化器症状、ブドウ膜炎)
混合タイプ
腹水・胸水、腹部臓器に肉芽腫のどちらの特徴もある症状。

感染経路について

猫腸コロナウイルス(FECV)が、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に突然変異すると考えられております。
その突然変異を起こす原因は、実際のところよく分かっておりません。

予防できる?

健康診断として、コロナウイルスの感染の強さを検査することができます。
複数回、血液検査を行い、高い値が続くようなら、リスクがある子として考えていきます。

猫伝染性腹膜炎(FIP)ウイルスの比較的多い発症ケースは?

  • 5歳齢以下または10歳齢以上の猫に多い、純血種の猫、多頭飼い、猫の飼育所からの購入
  • 猫白血病ウイルスや、免疫を下げるウイルスに感染している
  • ストレスを抱えている

等です。

ストレスをなるべくかけない飼育を心掛けるほか、他の猫たちとの接し方にも注意してください。

当院における猫の伝染性腹膜炎(FIP)への診断法
~国際的なガイドラインに準拠~

国際的な猫医学会であるISFMでもFIP治療に関するガイドラインが発表されており、 国際的なガイドラインに沿いつつ、当院での診療実績に基づく知見を交えて猫の伝染性腹膜炎(FIP)に対する治療を行っております。

FIPの診断は症状だけで判断することは困難です。複合的に診断を致します。
血液検査では肝酵素値や尿窒素、クレアチニン値の上昇、高タンパク血症(高グロブリン血症)や急性期・慢性期炎症 (SAAやα1-AGP)の上昇を認めることが多いです。
他にも合わせて、レントゲン検査や超音波検査にて腹水や胸水を確認することができます。
また腹水や胸水がある場合は、FIPウイルスの遺伝子を測定する(PCR法)こともあります。
さらに各臓器の中にシコリを作る場合には、細胞診で病理検査を行うことで診断が出来る事があります。
診断にはこれらの検査と症状を組み合わせて行い、FIPの可能性を検討していきます。

当院での診断の進め方をご紹介します。
※猫ちゃんの症状や状況によって、必要な内容に絞って実施致しますので下記の通りでないこともあります。ご了承下さい。

当院における診断の流れ

(1) 問診

⽣活環境などの飼育状況、⼊⼿経路など猫ちゃんの基本情報について、しっかりとお伺い致します。

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(2) ⾝体検査

ISFMガイドラインに基づいて⾝体検査では、①⼀般的な所⾒、②腹部の所⾒、③胸部の所⾒、④⼼臓の所⾒、⑤⽣殖器の所⾒、⑥神経系の所⾒、⑦眼の所⾒、⑧⽪膚の所⾒の8つを中⼼に確認しております。

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(3) 血液検査

①全⾎球検査(CBC)、②⾎液化学検査、③炎症マーカーなどを⾏い、猫ちゃんの⾝体の状態をしっかりと判定します。

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(4) 滲出液の検査

①全⾎球検査(CBC)、②⾎液化学検査、③炎症マーカーなどを⾏い、猫ちゃんの⾝体の状態をしっかりと判定します。

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(5) 画像診断

①超⾳波検査、②レントゲン検査、③CT検査などを⾏い、猫ちゃんの⾝体の状態をしっかりと判定します。

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(1)問診

確認事項①「⽣活場所にFCoV感染猫が存在するかについて」

FCoVを持続的かつ多量に排出する猫ちゃんがいる環境に由来する猫ちゃんは、FCoV感染に対するリスクが⾼く、結果としてFIPを発症しやすい状況にあります。そのため⽣活環境について確認することもあります。

確認事項②「多頭飼育環境での⽣活について」

多頭飼育環境の猫ちゃんはFIPを発症しやすいということはご存知の⽅も多いでしょう。単独で飼育している猫ちゃんでも、元をたどれば多頭飼育環境で⽣活していた可能性もありますので、こういった点も確認していきます。

確認事項③「年齢・性別・品種」

FIPは若齢期に発症しやすいと⾔われています。ISFMのガイドラインではFIP発症猫の60%前後が2歳齢未満の猫であることを指摘しています。FIP発症の雌雄差についても記載があり、未去勢の雄において発症リスクが⾼いと記載があります。FIPを発症しやすい品種は特定されていませんが、純⾎種は雑種よりFIPを発症しやすいことが確認されています。

確認事項④「ストレス・免疫抑制状態の可能性」

FIP発症猫の56.7%において何らかのストレスが加わっていたことが確認されているという研究結果があります。ISFMのガイドラインでは、ストレスの要因として、外科手術(避妊・去勢など)、ワクチン接種、胃腸炎、上部気道疾患、旅行・輸送・引っ越し、新たな家族(ヒト・動物)の同居などを挙げています。ただし、猫に対するストレス負荷を客観的に数値化することは難しいですが、ストレスが身体の免疫を低下させることは間違いありません。当院ではFIPに限らず、身体のストレスを軽減するサプリメントや治療法などもご提供しております。

猫免疫不全ウイルスや猫自血病ウイルスの感染も含めて、免疫抑制状態とFIPの発症の関係について統計学的に証明されたデータは存在しませんが、免疫抑制状態は体内でウイルスが増殖しやすい状態であるため、FCoV感染においては注意が必要です。

(2)身体検査

ISFMガイドラインに基づいて身体検査では以下の8つの所見を中心に確認しております。

①一般的な所見
元気消失、食欲不振、体重減少(体重が増えない)、抗菌薬に反応しない発熱(子猫では軽度の発熱であり、40℃未満が多い)、黄疸、リンパ節の腫大、可視粘膜の退色 などの有無

②腹部の所見
腹部膨満、触診可能な腹部腫瘤、消化器症状として発熱を伴わない幅吐・下痢 などの有無

③胸部の所見
胸水貯留による呼吸促拍および呼吸困難 などの有無

④心臓の所見
心タンポナーデ、心不全 などの有無

⑤生殖器の所見
陰囊腫大(滲出液の貯留)、持続勃起症 などの有無

⑥神経系の所見
痙攣、異常行動/情緒不安、中枢前庭経路の徴候、瞳孔不同、運動失調、四肢麻痺または対麻痺、協調運動障害、知覚過敏、神経麻痺 などの有無

⑦眼の所見
ぶどう膜炎、脈絡網膜炎、失明、前房出血、網膜血管炎、網膜剥離、前房蓄膿、線維素性滲出液の貯留、角膜沈殿物、瞳孔異常、瞳孔不同、虹彩の色の 変化 などの有無

⑧皮膚の所見
中毒性表皮壊死症、丘疹、血管炎・静脈炎の徵候、皮膚脆弱症候群 などの有無

(3)血液検査

①全血球検査(CBC)
②血液化学検査
③炎症マーカー

(4)滲出液の検査

FIPの典型的な滲出液は透き通った黄色でやや粘り気があることが多く、この滲出液が取得できる場合には、リバルタ試験を実施します。ガイドラインによると、2 歳齢未満のFIP発症猫由来の腹水におけるリバルタ反応の陰性適中率は90%となっています。

(5)画像診断

①超音波検査
ガイドラインでは、FIP検査の最初に、腹部の軟部組織の異常および貯留液の確認を目的としたスクリーニングとして、簡易画像診断の実施が勧められています。

超音波検査を実施して腹部に液体貯留が認められた場合は、すぐにその液体を採取してリバルタ試験、細胞診などの検査を実施します。腹部に液体が確認されなかった場合でも、他の検査においてFIPを疑う所見が確認された場合、詳細な腹部超音波検査(腹部リンパ節腫脹の有無、腎臓や腸の形状の変化などの確認)を実施するします。

②レントゲン検査
症状から胸水の貯留が明らかに疑われる猫は、胸部X線検査を実施してその状態を確認します。

③CT検査
神経症状を持っている猫ちゃんにおいては、FIP診断を目的にCT検査を実施することもあります。

治療法について

既存の獣医学では、治療法は確立されていません。

ステロイド剤など免疫抑制剤を中心に症状の進行を緩やかにしたり、延命を目的とした治療になります。
高齢猫において、ステロイドの高用量投与や、インターフェロンという免疫調整作用のある注射を定期的に打つことで、症状の改善が見られたという報告があります。

しかし、それらは根治的な治療でないために、完治は望めません。

当院の新治療法

治験研究段階なので薬品名を出す事は控えますが、通常【既存の治療方法では、FIP症例の30日間生存率が18.2%】であったものが、【新治療法では、同じく30日間生存率が84.2%】となった、という研究報告があります。

FIP専門外来をご希望の方へ

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